思春期の少女の感情の行方 手塚治虫賞受賞「逢沢りく」

タイトルのとおり、主人公は「逢沢りく」という中学生です。

素敵な両親との3人で暮らしています。学校でのりくは、ちょっと注目を集める存在です。きれいで、スタイルもよくて、オーラもあって。そして、りくには特技(?)があります。自分の感情とは関係なく、いつでも涙を流せるのです。いわゆる「嘘泣き」で周囲を翻弄してしまうのですが、りくにはその罪悪感はありません。むしろ、涙ひとつで振り回される周囲を見下すかのようです。

しかし、これはりくの心の闇からくる行動なのではないでしょうか。表面上、家族とは会話もするし仲良くやっているように見えます。しかし、りくは特に母親に対して微妙な感情を抱いています。母親は完璧主義らしく、りくに理想を押しつけているかのようです。りくはそれを裏切らないようにいい子を演じています。

どうやらそれはお互いに壁を作っているかのよう。デキる母親と思春期のりくはお互いになかなか本音をぶつけあうことはありません。そんな中、母親の提案で関西の親戚の家にりくが預けられることが決まってしまいます。関西の家は大家族で、大歓迎を受けるものの関西弁が苦手なりくにとっては苦痛でしょうがない暮らしでした。

なじめない関西でも暮らしのなかでも、母親との心のかけひきは続いています。お互いに、帰って来て欲しいならそういえばいいのに、泣いて帰りたいって言えばいいのにと思っていて、本音が伝えられないやりとりの場面は女子なら共感するところがあるのではないでしょうか。

そんななか、りくの心境にも変化が現れます。大家族の自分に対するお節介なまでのカラミを受けるうち、徐々に自分の感情を表に出すようになります。そしていざ家に帰れるとなった頃、りくが頑なに拒んできた「言葉」を発せざるをえなくなる事件(?)が起きました。

りくは、泣きました。これはきっと本物の涙だったと思います。なぜ泣いたのか、自分でもはっきりわからなかったかもしれません。でも、延々と泣き続けました。その後の母親とのことは描かれていませんが、吹っ切れたであろうりくが母親とどのような対面を果たしたのかは気になるところです。

「きょうの猫村さん」でおなじみの、ほしよりこ原作のコミック上下巻です。あの味のあるタッチで描かれた登場人物の表情がとても魅力的で、長編ものですが一気に読んでしまいました。

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